
重要文化財 浜松図屛風(部分) 室町時代・15~16世紀 東京国立博物館蔵
主な出品作品・章構成
序章
伝統と革新
―やまと絵の変遷―
やまと絵は中国由来の唐絵、もしくは漢画との対概念で成り立っているため、その概念は時代によって変化します。これら唐絵、漢画と見比べながら、平安時代から室町時代に至るやまと絵の歴史を大きく捉えます。
現存最古のやまと絵屛風
国宝山水屛風
鎌倉時代・13世紀 京都・神護寺蔵
展示期間 |
10月11日(水)~11月5日(日) |
遠くから見ればおだやかでありながら雄大な山並みが広がり、近くで見れば貴族や庶民の暮らしが細やかに描かれています。失われた平安時代やまと絵の姿を伝える大変貴重な作例です。
室町時代やまと絵屛風のダイナミズム
国宝日月四季山水図屛風
室町時代・15世紀 大阪・金剛寺蔵
展示期間 |
11月7日(火)~12月3日(日) |
うねるかのような水流の背後に雄大な山景を配し、日輪・月輪、そして四季の要素を散りばめた屛風。金銀もまばゆく輝き、室町時代やまと絵の雄渾さ、力強さを象徴する作例です。
1章
やまと絵の成立
―平安時代―
やまと絵の成立と発展には、貴族たちの文化的な営みが大きな基盤となりました。これら王朝貴族の美意識が込められた調度手本や装飾経、工芸品などとともに、四大絵巻をはじめとする院政期絵巻の数々から、平安時代やまと絵の実態に迫ります。
部分
現存最古級の紙絵のやまと絵
重要文化財法華経冊子
平安時代・11世紀 京都国立博物館蔵
展示期間 |
11月7日(火)~12月3日(日) |
中国製の唐紙に法華経を書写した冊子。一部の下絵に女房や男性貴族などが描かれ、物語絵、あるいは和歌の内容を描いた歌絵の一部と考えられています。平安時代の小画面絵画(紙絵)として極めて貴重な作品です。
蒔絵で表わされた美麗な山岳図
国宝蒔絵箏
(本宮御料古神宝類のうち)平安時代・12世紀 奈良・春日大社蔵
展示期間 |
10月11日(水)~11月5日(日) |
神に捧げるために作られた筝という楽器。表面には、蒔絵を駆使して、墨流しのような山岳の場景が表わされています。王朝時代の貴族の美意識が結実した工芸品です。
画像提供:静嘉堂文庫美術館/DNPartcom
部分
和と漢が幾重にも交差した名筆
国宝和漢朗詠集 巻下(太田切)
平安時代・11世紀 東京・静嘉堂文庫美術館蔵
展示期間 |
11月7日(火)~12月3日(日) |
色変わりで継がれた中国製の唐紙や蝋箋の上に、草木や鳥などのやまと絵を金銀泥で描いた料紙を使っています。そこに、和歌と漢詩を撰集した『和漢朗詠集』を書写しています。
部分
平安時代の恋愛小説を描いた絵巻
国宝寝覚物語絵巻
平安時代・12世紀 奈良・大和文華館蔵
展示期間 |
11月7日(火)~19日(日) |
満開の桜の下、三人の童子たちが笛を吹いています。金や銀で美しく彩られた華やかな場面ですが、曲がりくねる桜の木に、恋に悶える主人公の苦悩が投影されます。
2章
やまと絵の新様
―鎌倉時代―
鎌倉時代になっても、やまと絵を担っていたのは宮廷貴族社会でした。写実性に関心を払いながらも人物や風景の理想化が志向され、王朝時代を追慕する美術やさまざまな主題の絵巻が数多く作られました。これら新しいやまと絵の動向をご紹介します。
緊迫した状況下に描かれた伝説の肖像画
国宝後鳥羽天皇像
伝藤原信実筆 鎌倉時代・13世紀 大阪・水無瀬神宮蔵
展示期間 |
11月7日(火)~19日(日) |
承久の乱後、隠岐配流直前の後鳥羽天皇の姿を、似絵の名手・藤原信実が描いたとされる画像。小ぶりの画面、不安定な構図は、本図が短時間に描かれたことを物語っているようです。
巻第十 部分
一遍の巡った諸国の霊地を絹本12巻に描く
国宝一遍聖絵
法眼円伊筆 鎌倉時代・正安元年(1299) 神奈川・清浄光寺(遊行寺)蔵
展示期間 |
巻第九:10月11日(水)~22日/10月24日(火)~11月5日(日) |
時宗の祖・一遍の事跡を描いた伝記絵巻。一遍の訪れた全国の社寺の様子は宮曼荼羅などの先行図様を参照して詳細に描かれています。巻第七(東京国立博物館蔵)も10月11日(水)~11月5日(日)に展示します。
部分
失われた王朝時代を追慕する
重要文化財紫式部日記絵巻断簡
鎌倉時代・13世紀 東京国立博物館蔵
紫式部の仕えた藤原彰子(藤原道長の娘で一条天皇の中宮)を中心とする華やかな宮廷生活を描きます。後京極良経筆と伝わる詞書、金銀で加飾された料紙装飾にも当時の美意識が垣間見られます。
部分
伏見天皇が藤の花の描かれた料紙に記した願文
重要文化財伏見天皇宸翰願文
鎌倉時代・正和5年(1316) 兵庫・黒川古文化研究所蔵
展示期間 |
10月11日(水)~11月5日(日) |
金銀泥で藤の花が大きく描かれた料紙を使っています。平安時代の書をもとに独自の和様の書風を確立した伏見天皇が、『法華経』他を春日大社に奉納する際に記した願文です。
部分
合戦絵巻の代表的名品
国宝平治物語絵巻 六波羅行幸巻
鎌倉時代・13世紀 東京国立博物館蔵
展示期間 |
10月11日(水)~11月5日(日) |
平安時代末に起こった平治の乱に取材した絵巻。大型の料紙に鮮やかな彩色、謹直な線描など新時代の美意識を感じさせます。信西巻(静嘉堂文庫美術館蔵)、六波羅合戦巻断簡も同一期間に展示します。
3章
やまと絵の成熟
―南北朝・室町時代―
南北朝・室町時代には、水墨画に対抗するかのように多彩な色目と金銀加飾による華やかで眩い画面がやまと絵で志向されます。和漢の美が融合し、新たな文芸に触発された美術が花開いた成熟期のやまと絵の様相を探ります。
右隻
四季絵の要素を取り込んだ成熟期の源氏絵
源氏物語図扇面貼交屛風
室町時代・16世紀 広島・浄土寺蔵
展示期間 |
10月11日(水)~11月5日(日) |
源氏物語の著名場面を60面の扇面に描いた作品。物語の順ではなく、描かれた場面の季節に沿って、春夏秋冬の順に屛風に貼り交ぜています。源氏絵の新たな享受のかたちを示す作例です。
部分
豊饒なる室町絵巻の優品
重要文化財百鬼夜行絵巻
伝土佐光信筆 室町時代・16世紀 京都・真珠庵蔵
展示期間 |
10月11日(水)~11月5日(日)/11月7日(火)~12月3日(日)で場面替え |
闇夜に行列する妖怪たちの姿を描いた絵巻。コミカルな妖怪たちの姿に目を奪われますが、その画技はとびぬけて優れたもの。宮廷絵所預・土佐光信筆の伝承を持つ室町絵巻の優品です。
初折
華やかな下絵が描かれた料紙
法楽歌仙連歌懐紙
室町時代・応永30年(1423) 愛知・熱田神宮蔵
展示期間 |
初折:10月11日(水)~11月5日(日) |
金銀泥や群青・緑青を使って山水や鳥居、松などを描いた料紙です。熱田神宮大宮司他36人で上句と下句を連なって詠み合った連歌を、抑揚のある書風で揮毫しています。二紙を半期で展示替えします。
満月に照らされた秋野の枕
重要文化財砧蒔絵硯箱
室町時代・15世紀 東京国立博物館蔵
月夜の秋野にぽつんと枕が置かれた不思議な景色が蒔絵で表わされています。「衣打つ音を聞くにぞ知られぬる里遠からぬ草枕とは」という和歌を象徴的に表わした情景です。
右隻
漢画に学んだやまと絵屛風
重要文化財四季花鳥図屛風
伝土佐広周筆 室町時代・15世紀 東京・サントリー美術館蔵
展示期間 |
11月7日(火)~12月3日(日) |
中国明代花鳥画に倣ったやまと絵屛風。画中の花木、草花、鳥は中国画由来のものが中心ですが、画面を覆う金、並置的なモチーフ配置による奥行きの希薄さはやまと絵の表現に基づくものです。
4章
宮廷絵所の系譜
やまと絵を主に描いてきたのは宮廷絵所絵師です。平安時代以来、日本美術における「和」の領域を担ってきた彼らの作品を通覧することで、時代を超えて継承される美意識を探求します。
巻第五 部分
平安時代末の京都を描いた幻の絵巻
年中行事絵巻(住吉本)
住吉如慶他筆 江戸時代・寛文元年(1661)頃
原本:常磐光長筆 平安時代・12世紀
展示期間 |
巻第一:10月11日(水)~22日(日) |
平安時代末、後白河天皇の命令で作られた宮中や都の儀式行事祭礼を描いた絵巻。原本は宮廷絵師常磐光長が描いた60巻にも及ぶ大作で、本作は原本焼失前に写された貴重な作例。半世紀ぶりの展覧会公開です。
巻第三 部分
石山寺の歴史を美しい四季の風景とともに描く
重要文化財石山寺縁起絵巻
伝高階隆兼筆 鎌倉~南北朝時代・14世紀 滋賀・石山寺蔵
展示期間 |
巻第二:10月11日(水)~11月5日(日) |
『更級日記』の作者、菅原孝標女が石山寺に参詣した場面です。道中激しい風雪に見舞われたとあり、降り積もった雪が美しい自然景は、宮廷絵所絵師・高階隆兼の画風を今に伝えてくれます。
巻上 部分 藤原行広筆
6人のやまと絵師たちの競演
重要文化財融通念仏縁起絵巻
六角寂済他筆 室町時代・応永24年(1417) 京都・清凉寺蔵
展示期間 |
巻上:10月11日(水)~11月5日(日) |
南北朝時代末から室町時代初頭にかけて、宮廷絵所預を歴任したやまと絵師たち6人によって描かれた絵巻。詞書も後小松天皇、将軍足利義持など、豪華メンバーによって染筆された稀有の作例です。
巻上 部分
戦国のやまと絵師・土佐光信晩年の作
重要文化財清水寺縁起絵巻
土佐光信・光茂筆 室町時代・永正14年(1517) 東京国立博物館蔵
展示期間 |
11月7日(火)~12月3日(日) |
京都・清水寺の歴史を描く3巻の絵巻。室町時代後期、宮廷絵所預を半世紀もの長きにわたって務めた土佐光信の筆。息子で絵所預を継いだ光茂担当の段もある、親子合作の絵巻です。
中世最後のやまと絵師の作品
源氏物語図扇面
伝土佐光元筆 室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵
展示期間 |
10月11日(水)~11月19日(日) |
土佐光信の孫で光茂の子、光元筆と考えられる作品。織田信長に仕えた光元は但馬攻めに従軍して戦死。これにより土佐家は断絶します。光元の死は古代・中世と続いたやまと絵の一つの画期を象徴するものでしょう。
終章
やまと絵と四季
―受け継がれる王朝の美―
およそ千年にもわたって描き継がれてきたやまと絵において、四季の景物を描くことは主要なテーマの一つでした。過去の伝統を踏まえながらも新たな表現を獲得してきたやまと絵の真髄を、四季絵の要素を踏まえた作例を中心にご覧いただきます。
月図
日図
輝く金属板の日月が四季の景物を照らす
重要文化財日月山水図屛風
室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵
展示期間 |
日図屛風:10月11日(水)~11月5日(日) |
金属板の日輪、月輪をそれぞれ配し、桜や柳によって春夏、薄や刈田、雪によって秋冬の季節を表わした屛風。元は別々に伝来した屛風が取り合わされ、四季絵の体裁が整えられたものです。
第八扇 部分
近世風俗画を予感させる新旧融合のやまと絵
重要文化財月次風俗図屛風
室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵
展示期間 |
10月11日(水)~11月5日(日) |
月ごとの行事や景物等を描く月次絵の伝統を引く作例。賀茂競馬、春日若宮おん祭など従来的な画題に加え、羽根つき、花見、田植え、雪遊び等、庶民の営みを多く描くのは新時代の感覚。修理後初公開です。